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いつも何かに心惹かれて語りだす、起伏の激しい無節操ライフ。
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〔語り部、年末年始に語る〕






「あれ、ダイさん何見てるんです」


 語り部は火燵に入ってテレビを見ている男に問い掛けた。
 男は振り向いて、「おぉ、田口」と片手を上げる。

「風呂上がりか?それでもお前、律義に人前では取らないんだなぁ、頭のそれ」


 田口と呼ばれた語り部は、ウサギの着ぐるみの頭部で表情を隠したまま、少し機嫌悪そうに首をかくんと横に倒す。


「その呼び方、止めて下さいって言ってるんですけどねぇ。
 オフだからいいものの、仕事中だったらいくらダイさんが監督でも許さないかもしれませんよ」


 男は悪い悪い、と笑って語り部を手招きする。


「まぁお前もこっち来いよ。湯冷めしたら笑えるじゃないか」

「笑えませんよ。後の仕事に差し支えたらどうするんですってことでお言葉に甘えます」


 遠慮なしに語り部は火燵に足を入れた。


「で、何見てるんです?・・・これは年末特集のお笑い番組ですか」

「そうっちゃそうだが、ちょいとはずれてるな」


 男はがさがさと火燵の中から新聞を出した。


「何で新聞暖めてるんですか」

「お前変なとこ突っ込んでくるよな・・・」

「普通の反応だと思います」

「あぁそ。ま、理由は簡単だ。
 新聞紙ってのは保温性はあるが触った時が冷たい。僕はそれが嫌なだけだよ」

「変です」

「お前に言われたかねぇやい。新聞紙の話はいいから、これ見てみ」


 男は新聞紙を広げ、語り部は素直にそれを覗き込む。
 新聞のテレビ欄で、男の人差し指は立ち止まる。


「お前が言う今日のお笑い番組ってーと、多分これだろ?バカをウリにしてる芸人がクイズで有り得ん解答してそれをバカだなぁ、って笑うの」

「まぁそうですね」


 語り部は否定しない。
 確かにその番組がテレビ欄をの一角を占拠しており、今年活躍した俳優やらが何人か出るとかで、CMでよく目にしていたからだ。


「でもなぁ、違うんだ語り部」


 男は火燵の上に積んであった蜜柑ピラミッドからひとつをとり、それを剥き出す。


「僕さぁ、こーいうの嫌いなんだよなぁ」


 ぱくり、切り離した蜜柑の小さなひとつを口に入れて、男は語り出す。


「なんつーか見ててもさ、笑えないんだよねぇ。言っちゃなんだけど、むしろそれを通り越して苛々する」

「まぁ分かりますけどね。そんなことも分からないのか、って?」

「そうそう、そうなんだよ、こいつバカじゃねーのアハハーで終われないわけ。僕は」


 いっきに蜜柑をいくつも頬張り、それを呑み下して男は興奮を抑えるように息をつく。


「少なくともお前高校出たんだろーって言いたくなるんだ。テレビに向かってなのが余計腹立つんだけど」

「ははぁ、可笑しさで笑うというのではなく嘲笑の域になってしまうと。
 ダイさんみたいな高学歴の方には耐えられないわけですね」

「お前・・・僕ですら言えなかったことをそんなあっさり言うなよな・・・っていうか、流石にそこまでは思ってない。僕の学歴関係ない」

「分かってます。冗談です」

「あーはいはいそーいう奴だよなーお前はもー」


 頬杖ついて、男は諦めたような笑みを作る。


「ま、そんな訳でさ。僕はどっちかってーとインテリ芸人の出てるクイズ番組の方がすき。
 難易度高い問題とかもあるから、僕も解答を楽しめるしね。
 年末は紅白も悪くないんだが、最近の曲とか僕分かんないからさー」

「それって貴方の立場上よくないんじゃないんですか。流行には常にアンテナを伸ばしておかないといけませんよ」

「言うなよそれは・・・。そんな簡単にいきゃあ苦労しないっての。
 ただ台本に従って動くのとはレベルが違うんですーぅ」


 男が口を尖らせると、語り部は愉快そうに笑った。


「あっはっはっそれは大変ですねぇ。監督は負う責任も俺らとは桁が違いますから」

「そーだよお前らのせいだよ。いつも誰が苦労してると思って・・・あーなんか酒飲みたくなってきた」

「持ってきましょうか?」

 立ち上がりかけた語り部、「いや、いい」と男は制止をかける。


「今日くらいはのんびりゆったり夜更かしして過ごすよ。せっかくのオフだしな」

「そうですね。そうしましょうか。
 ところでダイさん」


 テレビにウサギの頭を向けて、語り部は尋ねた。


「このクイズ番組、出てる芸人、ちょっと抜けてる人多いですよね」


 そして、男に、道化のようにフザケた印象を持たせる渦巻き模様の硬い大きな目を向ける。

 その滑稽なウサギ頭に、男はにやりと口の端を引き上げて、答えた。


「これに出てる芸人がすきなもんでね。実をいうと、ちょっとバカなくらいが可愛かったりするのさ」


 語り部は、特別興味もなさそうにはぁ、と相槌をうつ。


「そういうもんですか」

「おう、そういうもん」

「ダイさんって面食いですよね、メンバーから見ても」

「お前・・・それ自分も入ってるって分かって言ってんのか・・・?」


 呆れたように片眉を上げて、その後に男は肩を竦める。


「ま、いっか。お前も一緒になんか見るか?」

「いいですよ。紅白以外なら」

「お前も珍しいよな」

「どちらかといえば洋楽の方が好みかもしれないような気がするんです」

「なんだそら」


 男は笑い、二人で火燵に肘まで入れながらテレビから流れる可笑しい笑い声を聞き流す。


「ねぇ、ダイさん」

「んー?」


 唐突に語り部が言ったのは、


「俺も蜜柑食べていいですか」

「すきに食えよっつか頭のそれはずせよ!」



 ある年ある居間での、ひどく間の抜けた年末の過ごし方。







<後書き。
 今回はいっぱいネタ出しました。 出そう出そうと思っているのになかなか出せないので、ここぞとばかりに。

 補足をすると、語り部は演劇などのナレーション的役割です。だから、他の役者と違い顔を出してはいけないのです。 どうしても顔を出す時は、ピンクのウサギの着ぐるみの頭だけを被って出てきます。非常に滑稽で不気味な顔のウサギです。
 でも監督さんは顔出しても大丈夫です。何故かというと彼はそこそこ有名なので表にも普通に出てるからです。


 さて。もう年が明けますね。
 皆様良いお年を。そして今年もよろしくお願いしますと一足早い挨拶を述べさせて頂きます。


 ・・・あ。
 でもよく考えたら、来年はウサギじゃなくて牛ですね。・・・気にしない!← 



 ちなみに、実在する芸人さん、番組とはまったく関係ありませんので。
 三条はこれを書いていたのでテレビまったく見てませんでしたorz
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プロフィール
HN:
三条 静流
HP:
性別:
女性
職業:
学生
自己紹介:
三条の生態日記。
時々気まぐれにイラストとかSS小説とか出ます。
現在主に書いてるオリジナル小説は『かたり部語り』シリーズです。


三条静流の代名詞:
骸狂。カフェイン中毒。絵描きで物書き。むくろふぃりあ。半腐り。骸狂。
モットーは気ままに気まぐれにマイペースに。
曖昧なものと強烈なものに伴う感動をこよなく愛する。
受験終了しました。新生活もなんとかやっていきたい。
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