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いつも何かに心惹かれて語りだす、起伏の激しい無節操ライフ。
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(そのバネは私を容赦なく次の季節へ押し出していくの)


気まぐれSS:かたり部語り
〔語り部、女と語る〕

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 最近、めっきり寒くなってきて、お気に入りのココア色のジャンパーを着ないと、登下校もままならないほどだった。
 でも、毎朝毎晩、確実に登下校には不要と思えるほどの速さで自転車をかっ飛ばす私は、目的地に着いた途端、どっと汗が噴き出してきて、いつもその始末に困るのだ。
 しかし、すさまじい速さで走っている時は自然に吹く冷たい風と、私自身が巻き起こす乱暴な風が遠慮無しに吹き付けてくるため、やっぱりココア色のジャンパーは、手放せなかった。

 何故、そんなに急ぐのと、聞かれたことがある。あの時、自分はなんと答えたんだっけ。
 聞かれた時は、確かに理由があったはずだ。
 でも、今はもうそんなことはとっくに習慣化して、私の生活の一部となっている。理由なんて、なんと答えたかなんて、覚えてもいない。
 ・・・時間が勿体ないから、だっただろうか。
 いや違う。これは、あいつの言ったことだ。
 私は聞かれて、そうじゃないと答えた。理由は覚えてないけれど、それは違うということだけは分かる。

 -信号が、ちょうど赤になった。私は悪態をついて、急ブレーキをかける。
 一度ひっかかると青になるまでが長い、この車の通りも少ない狭い道路に、甲高い、ゴムとステンレスとが擦れて削れてしまいそうな耳障りな音が響いて、少しの間空にとどまって、消えた。

 ふーっと息をついて、ぼーっと信号機を眺めていた。
別に、車が来ていないのだし、誰も見ていないのだから、さっさと渡っても良さそうなものなのだが、私はスピード出し過ぎで事故りそうになる常習犯のくせに、こういう交通ルールは守るという、変なタチだった。

 信号機は、私を無心にさせてくれそうで、そうではなかった。
少し錆び始めているが、まだつやつやした白いボディは健在で、晴れた秋の昼過ぎ特有の、涼しげな陽光をぼんやりと柔らかく弾き返していた。
 まだ十分明るいこの時間帯は、止まれの赤は点滅しているというよりも、あの小さな区画の中に、絵の具でムラなく色を差したように見えた。
 少しくすんだ白と、平淡な赤は、うっすらと白をかけたような気持ちの良い空の色にすごく馴染んでいて、両手の親指と人差し指で四角を作ってのぞいてみたら、なんだかレトロな雰囲気の写真みたいで、いい気分になったついでに、ケータイで撮っておいた。

 カシャ。

 シャッターを切る音は、私の急ブレーキとは違って、耳に心地よかった。鼻を冷やす空気も、本当は車の排気ガスとかで汚れているはずなのに、澄み渡った、綺麗なもののように感じられた。

 ケータイをポケットにしまって、ふと、ポケットに手を突っ込んだまま、頭上に広がる、雲ひとつない大空を見上げた。
こんな郊外では、車が少ない上に、背の高い建物も少ない。障害物のない空は、どこまでも澄んでいて、手を浸したくなるような涼しいげな水色で、そして、とてつもなく、大きかった。

 ずっと遠く、ビルの間に落ちている部分はすぅっと色が溶け出したような感じになっていて、透明水彩絵の具で描いた絵に、水滴を落とす様を思わせた。

 視界の端にちょっとだけ映る電信柱のシルエットは、完全に黒くなるにはまだ早い。
でも、私と空の間に入ることで、距離感をより途方もないものにするには、十分だった。

 いつの間にかぽかりと空いていた口に気付いたときには、私は舗装されていない歩道の上、仰向けになっていた。
カラカラと車輪が空回る音がして、自分が上を見すぎてひっくり返ったということに気付くのに、そう時間はかからなかった。

自転車の下敷きになったわけでも、打ち所が悪かったわけでもなかったので、手の甲の擦り傷程度で済んだ。
スピードの出し過ぎでケガをしたことはないので、こんなことで傷を作るというのは、私にとっては、あまり起こることのない、不思議な感覚だった。

 たいしたケガではないのだから、早く起き上がればいいものを、私は横転したのを自分の都合のいいようにして、しばらくそのまま、大の字で空を見上げていた。

 本当に、雲ひとつない、青空だった。
でも、夏の目が痛くなるくらいキレイなトルコ石の青空より、寒々としてるけど、ゆっくりと、目に優しいこっちの空色の方が、好きだな。

 ようやく私は立ち上がり、服の汚れを払って、自転車に跨がった。信号の色はとっくに青になっていて、その色もまた、レトロだった。

 私の自転車と並べて両方がレンズの中に収まるなら、写真としてお似合いだと思った。ママチャリのカゴは、ちょっぴり、ひしゃげてこぢんまりと小さくなっていた。

 もうすぐ、日の光が強くなって、空の端っこに、オレンジが滲むようになるだろう。
早く帰ろう。まぶしくて目がくらんでしまう前にと、私は横断歩道の、自転車用に引かれた白い線の間を、スタートから猛スピードで、駆け抜けるというより、弾丸のようにぶっとんでいった。

 やっぱり、お気に入りのココア色は、手放すわけにはいかないようだ。






<たまにはオリジナルを。時期的にもちょうどいいので秋が終わってしまう前に出したいな、と思いまして。
 実はこれ、丸2年前の文章なんです。一切修正してません。
 考えていることの根本や感性は変わらないなぁとしみじみと。
 気まぐれSSが1番私らしい文章と思うのは、こういうときなんです・・・。
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プロフィール
HN:
三条 静流
HP:
性別:
女性
職業:
学生
自己紹介:
三条の生態日記。
時々気まぐれにイラストとかSS小説とか出ます。
現在主に書いてるオリジナル小説は『かたり部語り』シリーズです。


三条静流の代名詞:
骸狂。カフェイン中毒。絵描きで物書き。むくろふぃりあ。半腐り。骸狂。
モットーは気ままに気まぐれにマイペースに。
曖昧なものと強烈なものに伴う感動をこよなく愛する。
受験終了しました。新生活もなんとかやっていきたい。
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