いつも何かに心惹かれて語りだす、起伏の激しい無節操ライフ。
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<世界シリーズ:「血塗れ空想」
いや、有り得ないだろう。
常人なら誰だって考えたくもない、そんな悍ましい空想なんて。
自分の浸かっている湯舟の湯が赤く染まっているだなんて、そんな妄想。
「そんなに驚くことでもないでしょう?
所詮、一人の子供の考えたことなんですから」
夢見がちな少年はそう言った。
「いや、いや、驚いてなど」
彼のところに来てまで、弁明する必要などないのに。
彼は微笑みながら、顔の前で手を振った。
「それで、何用だい」
「話を、聞いて欲しいんです」
「だろうね」
彼はテーブルに肘を着き、長く細い指先で自らの髪を弄る。
「話すといい。僕はそのためにこんなところまで来ているんだ。
・・人見知りの僕を引っ張り出すんだから、苺パフェは欠かせないよね」
夢見がちな少年はすぐにウェイトレスを呼んだ。
離れたところからこちらをずっと見つめていたウェイトレスは、早足でやって来た。
「苺パフェを一つ。・・僕はコーヒーで」
注文したのは少年だったが、ウェイトレスが頷いたのはニコニコしている彼に対してだった。
「アリガト、ユメミガチくん」
「・・ネーミングがそこはかとなく屈辱的ですね」
「アハハ、ごめんね。これ、僕のスタイルだから。
ゆーくんも僕のこと好きに呼んでいーよ」
短略化されてさらに悪化している、とユメミガチは思った。
本名に因んだ箇所など皆無であるからだ。
話すほどに、彼が無邪気な子供のように、得体の知れないものに思えてくる。
「・・分かりました。じゃあ、スーさんと呼ばせてもらいます」
「ん?」
「スウィート・ジャンキー(甘味中毒)。
さっきからパフェやらケーキやら、どれだけ奢らせれば気が済むんですか。もうお金ありませんよ」
「あ、ごめんね」
随分と安い謝罪だった。
「皮肉にしてはナイスセンス。今まで呼ばれた中ではいい方だ」
到着したパフェに微笑んで、甘味中毒は言う。
「酷かったのはアレだね、パシリ・フィッシュ(お手軽従者)。
パシリも酷いがこの酷さの最たるところは犬でなく魚ということだ。遊泳は僕を珍しく半的確に表現しているけれど、忠犬の方がカッコイイじゃないか。
どちらにしても、えさを与えれば簡単に動かせるなんて思ってほしくないけどね」
「まぁ・・そうですね。無償で働くような人にはとても見えません」
テーブルに積まれたキラキラ輝くガラス皿の山を横目に、ユメミガチは違う意味で賛同した。
「でしょー?僕はそんなに安くないの」
「えぇ、まったく。
ところでスーさん。それはいいんですが、いつまでこうして時間を潰すつもりですか。
支払うだけ支払わせて終わりなんて、嫌ですからね」
「あ、バレてた?」
彼は一切の悪びれもなく言い、少年に肩を落とさせた。
「冗談冗談、払ってもらう分の話はちゃんと聞くから」
「まだ足りないってんですか貴方は。
最後の一滴まで搾り取ろうとしても無理ですよ、もうケーキ一つ買うお金もないって言ってるじゃないですか・・」
甘味中毒は満面の笑みでメニューを提示し、お子様メニュー枠の178円のプリンを指差した。
「あ、エコバック持参割引レベルの優しさ痛み入ります」
財布の中身はきっちり把握されているらしい。
230円の苺ショートには及ばずとも、それならギリギリ買える。
残金2円に涙しながら、ユメミガチは甘味のためならもとより恥もない中毒者を恨んだ。
「さて、君の悪夢について聞こうか」
プリンを持って来たウェイトレスに笑いかけ、いやーゆーくんは優しーなーとホクホクしながら甘味中毒はやっと本題に入る。
「お風呂が真っ赤になっていた、だっけ?」
「いいえ、幻覚を見たわけじゃないんです」
「現実だって?」
「そうでもなくて、ですね」
コーヒーを口にして、ユメミガチは実に夢見がちな妄想を口にした。
「もし、そうだったら」
「いいなって?」
「違います。
僕だって嫌ですよ。ただの殺人現場と化した浴室じゃないですか、そんなの」
「んーじゃ、こーゆーコト?」
ストローを口にくわえて空になったジュースの残りをすすり、甘味中毒は立てた人差し指をくるくると回す。
「幻覚を見たわけでなく、
現実との区別はついていて?
それでもってぼーんやりそーうだったらいーいのーになーっ、と」
「いいなとは思ってませんがそんなところです」
「ふむふむ」
何を理解して頷いているのかは知らないが、甘味中毒の中ではきちんと整理ができているらしい。
ストローを口から離して、細身のスプーンを手に取る。
「それ、思い付いたの、いつ?」
「二日くらい前ですかね。深夜に入浴してた時です」
「まぁそうだろうと思ったけどね、結構曖昧だねー・・。
それを思い付いたきっかけとかある?あればその空想の詳しい話にプラスしてくれるといいな」
「きっかけ、というのかハッキリしませんが・・。」
ユメミガチは見た夢を空想を辿って思い返す。
「・・ケガ、してたんですよ。痂がふやけて、剥がれかけたところから血が滲んできて。
痛くもないし、たいした出血じゃないからすぐに止まりましたけど」
話を聞く甘味中毒は苺にはむ、と噛り付き、面白そうにしながらクリームを掬う。
「ほとんど一瞬でしたけど。お湯の中に、糸を引くように流れ出した赤い血を見ていたら、ぼんやり思ったんです」
「オワリ、だね」
「えぇ、話は以上です」
甘味中毒の確認に答えて、ユメミガチはぐぅっとコーヒーを飲み干した。
「んじゃ、ゴチソウサマ」
立ち上がる、甘味中毒。
「お代はよろしく」
微笑みながら。
「えっ」
ユメミガチは思わず見上げ、声を上げる。
確かに話は聞いてもらった。その引き換えに、かなりの甘味(正しくはその代金)を支払った。
これで交換条件は成立している。
しかし、これで終わっていいのか。
「もう、終わりなんですか」
その問い掛けを。いや、この場で声をかけられたことすら意外だとでもいうように、目を丸くした甘味中毒。
次第にそれは笑みへと変化していく。興味を惹かれたかのように、その下で探るような視線を伸ばして。
「ん?ゆー君がオワリだって言ったんじゃない。
それをわざわざ引き止めるってことは・・・」
一度切られた台詞には、何かが含まされていた。
それはまるで綿に染み込んだ砂糖水のような。
「ゆー君のユメには続きでもあるのかな」
彼らの間で空間が静止したかのような、奇妙な間があった。
ユメミガチな少年は驚いた顔をしていたが、その対象は甘味中毒の男であるよりも自らであるらしかった。
「スーさん」
彼は、彼の男を呼ぶ。
「また、話せますか」
テーブルには、最初からあったのだが最後まで甘味中毒が口を付けなかった紅茶があった。
その水面に彼の男の楽しそうな笑みがゆらりと浮かべられる。
「さて、どうかなぁ」
のらりくらりとはぐらかす口調で男は軽く言い流す。
そして、近くもないのに少年を覗き込むような目で、視た。
「また、あまーいものをいっぱい食べさせてくれる、っていうなら考えてもいいかもしれないけどね?」
すでに立ちのぼるものも見えない、冷めきったティーカップの中でたゆたっているのは、ユメミガチな少年が空想したのと同じ、真紅の嘘の色だった。
彼は彼の瞳の中にも、その空疎な色を視ている。
すでに次の空疎な紅嘘の空想ははじまっていた。
「連絡先、教えてもらえますか」
ユメミガチな少年の眼の色をじっくりと眺めながら、甘夢中毒はニコリと微笑み唇を動かした。
「次はもっと、あまいといいなぁ」
<や、やっとできました・・・。このぐだぐだ感と語り方からおそらく気付いた方もいるはず。
この話は、今の語り部シリーズの元となったものです。こんなところで裏話。
途中で止まったまま放置も勿体ない気がするので気まぐれSSの方でお披露目。確かに気まぐれの産物である。
こうしてスーさんが語り部の元の半分となったわけですが。・・・残り半分の由来はというと、・・・興味のある方は聞いてみて下さい。(ぇ) 語り部シリーズ読んでくれてる方なら分かるかもしれませぬ。
常人なら誰だって考えたくもない、そんな悍ましい空想なんて。
自分の浸かっている湯舟の湯が赤く染まっているだなんて、そんな妄想。
「そんなに驚くことでもないでしょう?
所詮、一人の子供の考えたことなんですから」
夢見がちな少年はそう言った。
「いや、いや、驚いてなど」
彼のところに来てまで、弁明する必要などないのに。
彼は微笑みながら、顔の前で手を振った。
「それで、何用だい」
「話を、聞いて欲しいんです」
「だろうね」
彼はテーブルに肘を着き、長く細い指先で自らの髪を弄る。
「話すといい。僕はそのためにこんなところまで来ているんだ。
・・人見知りの僕を引っ張り出すんだから、苺パフェは欠かせないよね」
夢見がちな少年はすぐにウェイトレスを呼んだ。
離れたところからこちらをずっと見つめていたウェイトレスは、早足でやって来た。
「苺パフェを一つ。・・僕はコーヒーで」
注文したのは少年だったが、ウェイトレスが頷いたのはニコニコしている彼に対してだった。
「アリガト、ユメミガチくん」
「・・ネーミングがそこはかとなく屈辱的ですね」
「アハハ、ごめんね。これ、僕のスタイルだから。
ゆーくんも僕のこと好きに呼んでいーよ」
短略化されてさらに悪化している、とユメミガチは思った。
本名に因んだ箇所など皆無であるからだ。
話すほどに、彼が無邪気な子供のように、得体の知れないものに思えてくる。
「・・分かりました。じゃあ、スーさんと呼ばせてもらいます」
「ん?」
「スウィート・ジャンキー(甘味中毒)。
さっきからパフェやらケーキやら、どれだけ奢らせれば気が済むんですか。もうお金ありませんよ」
「あ、ごめんね」
随分と安い謝罪だった。
「皮肉にしてはナイスセンス。今まで呼ばれた中ではいい方だ」
到着したパフェに微笑んで、甘味中毒は言う。
「酷かったのはアレだね、パシリ・フィッシュ(お手軽従者)。
パシリも酷いがこの酷さの最たるところは犬でなく魚ということだ。遊泳は僕を珍しく半的確に表現しているけれど、忠犬の方がカッコイイじゃないか。
どちらにしても、えさを与えれば簡単に動かせるなんて思ってほしくないけどね」
「まぁ・・そうですね。無償で働くような人にはとても見えません」
テーブルに積まれたキラキラ輝くガラス皿の山を横目に、ユメミガチは違う意味で賛同した。
「でしょー?僕はそんなに安くないの」
「えぇ、まったく。
ところでスーさん。それはいいんですが、いつまでこうして時間を潰すつもりですか。
支払うだけ支払わせて終わりなんて、嫌ですからね」
「あ、バレてた?」
彼は一切の悪びれもなく言い、少年に肩を落とさせた。
「冗談冗談、払ってもらう分の話はちゃんと聞くから」
「まだ足りないってんですか貴方は。
最後の一滴まで搾り取ろうとしても無理ですよ、もうケーキ一つ買うお金もないって言ってるじゃないですか・・」
甘味中毒は満面の笑みでメニューを提示し、お子様メニュー枠の178円のプリンを指差した。
「あ、エコバック持参割引レベルの優しさ痛み入ります」
財布の中身はきっちり把握されているらしい。
230円の苺ショートには及ばずとも、それならギリギリ買える。
残金2円に涙しながら、ユメミガチは甘味のためならもとより恥もない中毒者を恨んだ。
「さて、君の悪夢について聞こうか」
プリンを持って来たウェイトレスに笑いかけ、いやーゆーくんは優しーなーとホクホクしながら甘味中毒はやっと本題に入る。
「お風呂が真っ赤になっていた、だっけ?」
「いいえ、幻覚を見たわけじゃないんです」
「現実だって?」
「そうでもなくて、ですね」
コーヒーを口にして、ユメミガチは実に夢見がちな妄想を口にした。
「もし、そうだったら」
「いいなって?」
「違います。
僕だって嫌ですよ。ただの殺人現場と化した浴室じゃないですか、そんなの」
「んーじゃ、こーゆーコト?」
ストローを口にくわえて空になったジュースの残りをすすり、甘味中毒は立てた人差し指をくるくると回す。
「幻覚を見たわけでなく、
現実との区別はついていて?
それでもってぼーんやりそーうだったらいーいのーになーっ、と」
「いいなとは思ってませんがそんなところです」
「ふむふむ」
何を理解して頷いているのかは知らないが、甘味中毒の中ではきちんと整理ができているらしい。
ストローを口から離して、細身のスプーンを手に取る。
「それ、思い付いたの、いつ?」
「二日くらい前ですかね。深夜に入浴してた時です」
「まぁそうだろうと思ったけどね、結構曖昧だねー・・。
それを思い付いたきっかけとかある?あればその空想の詳しい話にプラスしてくれるといいな」
「きっかけ、というのかハッキリしませんが・・。」
ユメミガチは見た夢を空想を辿って思い返す。
「・・ケガ、してたんですよ。痂がふやけて、剥がれかけたところから血が滲んできて。
痛くもないし、たいした出血じゃないからすぐに止まりましたけど」
話を聞く甘味中毒は苺にはむ、と噛り付き、面白そうにしながらクリームを掬う。
「ほとんど一瞬でしたけど。お湯の中に、糸を引くように流れ出した赤い血を見ていたら、ぼんやり思ったんです」
「オワリ、だね」
「えぇ、話は以上です」
甘味中毒の確認に答えて、ユメミガチはぐぅっとコーヒーを飲み干した。
「んじゃ、ゴチソウサマ」
立ち上がる、甘味中毒。
「お代はよろしく」
微笑みながら。
「えっ」
ユメミガチは思わず見上げ、声を上げる。
確かに話は聞いてもらった。その引き換えに、かなりの甘味(正しくはその代金)を支払った。
これで交換条件は成立している。
しかし、これで終わっていいのか。
「もう、終わりなんですか」
その問い掛けを。いや、この場で声をかけられたことすら意外だとでもいうように、目を丸くした甘味中毒。
次第にそれは笑みへと変化していく。興味を惹かれたかのように、その下で探るような視線を伸ばして。
「ん?ゆー君がオワリだって言ったんじゃない。
それをわざわざ引き止めるってことは・・・」
一度切られた台詞には、何かが含まされていた。
それはまるで綿に染み込んだ砂糖水のような。
「ゆー君のユメには続きでもあるのかな」
彼らの間で空間が静止したかのような、奇妙な間があった。
ユメミガチな少年は驚いた顔をしていたが、その対象は甘味中毒の男であるよりも自らであるらしかった。
「スーさん」
彼は、彼の男を呼ぶ。
「また、話せますか」
テーブルには、最初からあったのだが最後まで甘味中毒が口を付けなかった紅茶があった。
その水面に彼の男の楽しそうな笑みがゆらりと浮かべられる。
「さて、どうかなぁ」
のらりくらりとはぐらかす口調で男は軽く言い流す。
そして、近くもないのに少年を覗き込むような目で、視た。
「また、あまーいものをいっぱい食べさせてくれる、っていうなら考えてもいいかもしれないけどね?」
すでに立ちのぼるものも見えない、冷めきったティーカップの中でたゆたっているのは、ユメミガチな少年が空想したのと同じ、真紅の嘘の色だった。
彼は彼の瞳の中にも、その空疎な色を視ている。
すでに次の空疎な紅嘘の空想ははじまっていた。
「連絡先、教えてもらえますか」
ユメミガチな少年の眼の色をじっくりと眺めながら、甘夢中毒はニコリと微笑み唇を動かした。
「次はもっと、あまいといいなぁ」
<や、やっとできました・・・。このぐだぐだ感と語り方からおそらく気付いた方もいるはず。
この話は、今の語り部シリーズの元となったものです。こんなところで裏話。
途中で止まったまま放置も勿体ない気がするので気まぐれSSの方でお披露目。確かに気まぐれの産物である。
こうしてスーさんが語り部の元の半分となったわけですが。・・・残り半分の由来はというと、・・・興味のある方は聞いてみて下さい。(ぇ) 語り部シリーズ読んでくれてる方なら分かるかもしれませぬ。
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プロフィール
HN:
三条 静流
HP:
性別:
女性
職業:
学生
自己紹介:
三条の生態日記。
時々気まぐれにイラストとかSS小説とか出ます。
現在主に書いてるオリジナル小説は『かたり部語り』シリーズです。
三条静流の代名詞:
骸狂。カフェイン中毒。絵描きで物書き。むくろふぃりあ。半腐り。骸狂。
モットーは気ままに気まぐれにマイペースに。
曖昧なものと強烈なものに伴う感動をこよなく愛する。
受験終了しました。新生活もなんとかやっていきたい。
時々気まぐれにイラストとかSS小説とか出ます。
現在主に書いてるオリジナル小説は『かたり部語り』シリーズです。
三条静流の代名詞:
骸狂。カフェイン中毒。絵描きで物書き。むくろふぃりあ。半腐り。骸狂。
モットーは気ままに気まぐれにマイペースに。
曖昧なものと強烈なものに伴う感動をこよなく愛する。
受験終了しました。新生活もなんとかやっていきたい。
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