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いつも何かに心惹かれて語りだす、起伏の激しい無節操ライフ。
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 〔かたり部語り〕


 〔語り部、誕生日を語る〕







「お、お前、誰だ、何だ、何なんだ」

 少年の動揺も当然といえた。


 本日は少年の生誕を祝う日。
 友人やら家族やらに祝われて、プレゼントを貰って、夕食には外食して一日中いい気分で。

 自室でのんびり音楽を聞きながらそのいい気分に浸って、いい気分のままこの日を終える。その予定だったのに。


 終わりを締め括るのは 招かれざる窓からの来訪者。

「はじめましてこんばんは、本日はお誕生日おめでとう」


 声がしたと同時に、部屋の明かりが消えた。
 少年は本能的に光を探し、そして月明かりの射す窓へと目を向ける。
 いつの間に開いていたのか。
 月明かりの逆光で顔は見えない、窓枠に腰掛ける姿がひとつ。

「いい夜だね。実にいい夜だ。闇が濃くて月がこんなにもまばゆい。
 この日に生まれた君は、俺から祝福されるべきだ」

 男のものらしい、その声は少年には難解なことを言った。
 微笑んでいるかのように。大袈裟な演技をしているかのように。


「何言ってるんだよ・・お前、ホントに何なんだ。警察呼ぶぞ」

 少年が薄暗闇の中 部屋の照明のスイッチを探し言うが、いくら壁をまさぐっても求める感触は見つからない。

 そう、少年が言って、来訪者は怯んだりするどころか、笑い声をあげた。

「いやそれは困るな。子供たちにプレゼントを配りにきたサンタクロースが不法侵入と無実の強盗の罪で警察行きなんて、最高に笑えるじゃないか」

「・・・は・・?・・何、まさか自分がサンタクロースだって言いたいわけ」

 しかしまだ10月、それはない。
 今サンタクロースを名乗ろうものなら、その人物は間違いなく、カレンダーをかう余裕もないほどお金に困っていて、それで強盗をするに思い当たった・・・そんなところだろう。
 少年はスイッチよりも何か撲殺できるようなものを探す方向に切り換えた。

「はぁ?って言いたいのは俺の方だよ。君、10月生まれなんだろう、今日生まれたんだろう?
 サンタさんはたいてい12月にくるものだ」

「そんなん知ってるっつの!じゃあっつーかお前は一体何なんだって!
 出ていかないと、出ていかないと・・・・・・殴る!」

「えぇー?それはやだなぁ。痛そう」

 男はわざとらしく言って、また笑った。

「俺はサンタじゃない。サンタじゃないけど、君にプレゼントを渡しにきた」

「プレゼント?」

 思わず幼い子供のような言い方をしてしまって、少年は後悔した。

「んなわけないじゃん。何で見ず知らずの人間に誕生日プレゼントなんてくれるんだよ。
 すべての子供たちに差別なくプレゼントを配るサンタの方がまだ怪しくない」

「それが12月ならね」

「まぁそうなんだよな・・ってそうじゃないそうじゃない。
 大体、何で誕生日知ってるんだ。何で、くれるとか言うんだよ。
 お前いろいろ怪し過ぎ。つーか誰だ」

 まくし立てるように、少年が言うと、男はちょっと肩を竦めた。 困ったように、・・・面倒くさそうに。

「なんだい、有名な人でないと祝っちゃいけないのかい?祝い事があればそれはめでたいことだ。なら祝っても問題はないだろう。
 それに、考えてみるといい。かの有名なイエス・キリストの生誕は多くの人に祝福され、今も続いているが、いつの日かサンタクロースがプレゼントをくれる日になってしまっているじゃないか。
 有名だから祝いはする、でも誰を何を何のために祝うのか、君は正解に明確な答えを今ここで俺に出すことはできるのかい?
 俺はそんな気をつけないと忘れ去られてしまいそうなお偉いさんの生誕より、俺が綺麗だと思う月の夜に生まれた君を祝う方がよっぽどいい。少なくとも、プレゼントをあげたら君は俺の目の前で喜んでくれるだろう?」

 少し長い語りの後、語り部は悪戯っぽい笑みを含んだ声で、付け加えた。

「ということで、何が欲しい?」

 気圧されるように口を挟めなかった少年は、上手く回らない頭と舌で、本心を呟いた。

「・・・・・・お金・・・?」

「文字通り、現金だね」

「仕方ないだろ、知らない奴に貰っても1番無難なんだから」

「まぁ、そうだね」

 納得したように、語り部は口許に手を当て、頷く。

「物だと、変な物貰うことも少なくないしね。使えない物だったり、趣味が合わなかったり。相手は好意でくれてるわけだから、嬉しくないのに礼を言わなきゃいけないとか、微妙な気分になるよねぇ。
 その分、現金は貰って損はないし、自分で好きな物が買える。いわば選択の自由をプレゼントされたというところだね。俺、その考え方かなり好きだよ」

 また、語り部は笑って。
 今度は、くすくすと抑えるように。

「いいよ。君のすきな物をあげる。
 でも俺としても、流石にお札をあげるのは雰囲気的に嫌だなぁ。お正月はもっと先だしね。
 と、いうわけで」

 語り部はどこからともなく、封筒のようなものを取り出して少年に向かって放った。
 反射的に少年はそれを受け取ってしまう。

「お札じゃないけど、金券なら文句ないでしょ?この部屋を見た感じ、かなりの枚数のCDがあるみたいだし」

 さて。と語り部は窓枠に捕まりながら、立ち上がった。

「俺はそろそろ行くよ。こんな時間だし、眠くなってきた。
 ・・・そうそう、君は俺が誰だってずっと聞いてたのに、答えていなかったね、ごめん」

 月影の下で、語り部の口許が弧を描いたような気がした。


「俺の仕事は物事を語り、語らせることだよ。
 ま、今日の俺は季節はずれの笑えないサンタクロースだったわけだけど」

「・・おい、お前・・・」

「今宵はお誕生日おめでとう、さようなら もう会うことはないけどね」

 瞬きの間に、語り部はいなくなった。
 消えたという表現はあまり正しくはない。しばらくすると部屋の明かりがついて、まるで、ただ彼がいないときに戻っただけのようで。
 元のように、彼がここに存在していないだけ。


 少年は窓の外をぼんやり眺めながら、あることに気付いた。

 始めは確かに、照明が消えたばかりで目も暗闇に慣れてはいなかった。しかし、それから、夜目が効くようになるくらいには時間は経過していたはずだ。
 逆光だったからとはいえ、光の強さは月明かり程度。
 なのに、彼の顔は最後まで見ることはできなかった。

 そして、彼は暗くて軽く散らかった部屋の中にあるCDを正確にそれと判別していた。


 少年は手にしていた封筒を開けた。

「うわっ、五千円分入ってる。あいつ懐広っ、ずるっ、でもありがとう!」



 語り部は顔を見せてはいけない。
 なぜなら、演劇のナレーションのように、物語に関与してもそれは決して舞台に立つ役を与えられた登場人物ではないからだ。


 しかし。


 彼は時折、顔を隠し、名もなき役を演じることもある。
 その時の彼は、非常に、めんどくさそうである。








<ありがたいことに、心の妹 神無月が語り部を気に入ってくれたらしく、彼女の誕生日祝いとして書いてみました。
 語り部を書くのは楽しいのですが、語りを書くのは難しいです頭がこんがらがります。

 こんなものでよければ、神無月へ捧げます。

 ハピバ!神無月!
 どうか語り部をよろしくしてやってね!^^
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姉さん…凄すぎるよ!
こんばんは文字通りお邪魔します、あなたの神無月でっす!(何)
コメでは初めまして、と言うよりまず貴サイトでは初めましてになりますね。「絡め」との事でしたので携帯からちょこっと失礼。

ちょっと恥ずかしいけど、でも俺、姉さんの為にやるよ…!あと大変萌え……げふんげふんっ、いえあの、嬉しかったので!!
まず謝ります、長いよ!



まさか、語り部お願いしたその日にうPされてるとは思わなかったですよ……!

姉さんのオリジは考察が深くて好きです。あと語り部は死ぬほど好きです。生きる糧っぽいです田口くん萌え!
と言うか、語り部で結局名乗らず颯爽と去っていった麗しの彼は一人称俺なんですか。ほほぅ。

なんだか、こう、一つ知る度に嬉しくなると言うか………恋に恋する初な乙女とは言いませんが。まぁそんな感じです。(軽い)



静流姉さんの、情景が鮮明で文字運びが繊細で言い回しが巧みな上才気をありありと感じさせる文章と、“かたり部”のユニークな個性が神無月的にモロツボです!大っ好きです!

素晴らしいです、頭カチ割って中見てみたいです。(グロ)(すみません)

神無月は姉さんの数あるオリジの中でも語り部が特に好きなのです、もう好きすぎて端から見ていてキモいくらいです。ねっ!(同意を求めるな)



しかし、言うほど長くなりませんでしたがこれからも一ファンとして応援していますので頑張ってくださいませ!
神無月暁夜 2008/10/13(Mon)23:23:55 編集
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プロフィール
HN:
三条 静流
HP:
性別:
女性
職業:
学生
自己紹介:
三条の生態日記。
時々気まぐれにイラストとかSS小説とか出ます。
現在主に書いてるオリジナル小説は『かたり部語り』シリーズです。


三条静流の代名詞:
骸狂。カフェイン中毒。絵描きで物書き。むくろふぃりあ。半腐り。骸狂。
モットーは気ままに気まぐれにマイペースに。
曖昧なものと強烈なものに伴う感動をこよなく愛する。
受験終了しました。新生活もなんとかやっていきたい。
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