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いつも何かに心惹かれて語りだす、起伏の激しい無節操ライフ。
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 気まぐれSS:〔梅の砂糖漬け〕



 我が家の庭には、梅の木がある。
 都会にはない、決して大きいとは言えないけれど、僕に言わせてもらえば結構立派な奴が、二本生えている。

 3、4年前にはもう一本あった。
 でも、寿命がきて、切られてしまった。
 ただでさえ無駄に面積のある田舎の庭が、不自然なくらいに広々と感じられたのを覚えている。


 僕のいけないところは、記憶力のないところだ。

 学校では中堅くらいの成績をとっているけれど、毎日見ているはずの梅の実がなる時期を、どうしても忘れてしまうのだ。
 今年も、気付いたらばあちゃんに先に全部やられていた。

 青かった実が地に転がって、黄色く、ぐじゅぐじゅに柔らかくなった中身が見えていた。
 たまに烏がやってきて、それを啄み、汚らしく辺りを散らかしていく。

 やめろよなー、と思いながらも、いずれ土にかえっていくのかいつの間にか消えていくものなので、掃除する必要もなく、僕は夕暮れの中、空腹を思い出して家に入る。


 ばあちゃんは、働きものだ。
 70をとうに越えているけれど、背筋がしゃんとしていて、きびきびと動く。
 じいちゃんがちょっとのんびり屋なので、そのせいもあるのだろうか。

 僕なんかより、ずっと「生きてます」って感じがする。


 田舎の冬は厳しい。
 家がまるごと天然の冷凍庫の中だ。

 マンション住まいの友達がいる。

 遊びに行ってみて、確かに眺めはよかったし(四階でも、自分の部屋が高いところにあるのはいい)他に特に理由は思い付かないけど、いいなぁとは思った。

 この季節になると、いいなぁ、の理由がひとつ増える。
 無駄に部屋数が多くないところがいい。

 広い家だと、暖房は効かないわ、日光があまり入って来ない部屋があるわ、結構ナンギなのだ。

 雪の日の廊下なんて、屋外というわけでもないのに、とてもじゃないが歩いて渡れない。
 いつでも移動は全力疾走。
 部屋の出入りは冷たい空気が入って来ないように素早くかつ静かにが基本だ。

 広い家に住みたいだなんて、そんなにいいものじゃない。
 都会のセレブは家中に暖房が行き渡るだろうから、別だけど。


 朝ご飯を食べたすぐあとで、唐突に弟がばあちゃんに言った。

「梅ジュース、もう飲んじゃったよね?」

 驚いたのは僕だ。
 プロフィールに書き込むほどではないが、ばあちゃんが漬けた梅干しは旨い。
 梅ジュースはもっと美味い。大好きだ。

 なのに、なくなってしまったらしい。
 いや、僕としてはとっくになくなっているものと思っていた。
 それがまだ残っていて、弟が飲んでしまったらしい。

 僕はちょっぴりやさぐれた。

 なのでテレビを見ようとしたら、弟に呼ばれた。

「兄ィは梅の砂糖漬け、いるー?」

 一瞬、何だそれ、と僕の頼りない記憶は反応しなかった。
 が、二秒後には僕は精一杯の挙手をして、飛びついていた。

 梅の砂糖漬けは甘くて、梅特有のすっぱさがあって、すごくうまかった。

 細かな毛が生えている表皮のきゅっきゅという舌触りが好きだ。
 大きな種が少し面倒だけれど、弟が「種がキャンディみたいだ」と言ったので、考え直してみた。

 成る程。
 種だけを舌の上で転がし、感想をまとめた。

 炭酸の抜けたサイダーみたいなキャンディ、みたいな薄い味がした。

 ・・・なんだ、全然上手くまとまってなんかいないじゃないか。
 国語力の低い自分に突っ込んでみながら、べ、と種を出した。


 梅の木は、今は雪に埋もれている。

 去年の夏、雷が落ちて一本は二つに裂けて芸術品みたいな姿になってしまった。
 でも、まだばりばりの現役だ。

 その芸術的に地面とほぼ平行になった枝のお陰で、きっと実はとりやすくなっいる。


 今年、僕の記憶力が現状維持かまたは向上していたら、ばあちゃんが死んでしまう前に一度梅を漬けてみたいと思う。




<そんな日常的ショートストーリー。
 随筆っぽい文章だね、とよく言われます。
 こういう文章を書くのが実は一番好きだったりします。
 でも短文は難しい。少なくともこの約三倍以上が普通なので。

 テスト終わったらメインに入れとこうか、どうしようかなぁ。
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プロフィール
HN:
三条 静流
HP:
性別:
女性
職業:
学生
自己紹介:
三条の生態日記。
時々気まぐれにイラストとかSS小説とか出ます。
現在主に書いてるオリジナル小説は『かたり部語り』シリーズです。


三条静流の代名詞:
骸狂。カフェイン中毒。絵描きで物書き。むくろふぃりあ。半腐り。骸狂。
モットーは気ままに気まぐれにマイペースに。
曖昧なものと強烈なものに伴う感動をこよなく愛する。
受験終了しました。新生活もなんとかやっていきたい。
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