2008/06/03 (Tue) 00:51:27 気まぐれＳＳ：「悪夢は突然に」

　気まぐれＳＳ：〔悪夢は突然に〕

　いつもと変わらぬ月曜日。
俺は自転車に乗って今日も学校へ行く。

　信号のない十字路。そこで俺は自転車を止めた。
　横断歩道を渡れという話だが、生憎それはずっと向こうにある。
　車の通りもまちまちなのでここで待っていた方が断然早い。

　しかし、そこには先客がいた。
　一台の黒い車が同じように止まって、車の流れの切れ目を待っていた。
　当然、俺はその車の左隣に並ぶことになる。

　左右確認をしようとして、失敗したと思った。
　右から来る車を確かめるには、隣にいる車の運転席の窓を通して見るしかないのだ。そこには運転席にいる女の人の後頭部が見えた。

　この車が行ってからにしよう、と大人しく諦めて、右に向いた顔を正面に向けようとした時。
　こちらを向いた運転手の女性と目があってしまった。

　うわ、やばい。
そう思って目を逸らそうとしたのだが、驚いたことに、彼女は笑いかけてきた。

　知り合いだったか・・？
　見たことがあるような、そんな感覚に促されるまま、俺は無意識に、そう無意識に、後部座席へと視線を送った。

　後部の窓は外からは中が見えにくくなっていて、上の方が黒っぽくなっていた。

　それでも可視した車の中。
　確かに誰かが座っていた。

　白いワイシャツと黒いズボンの服装から制服だと判断できる。
　一見して、どこかの高校の男子生徒。（俺の学校は私服だから他校生だ）

　例の窓ガラスのせいで顔半分より上は見えなかったが、

　俺が見た瞬間、

　『クスッ』

　「・・・っ」
　奴は、俺を見て、無邪気な仕草で笑った。

　そしてすぐに、車は直進して行ってしまった。

　俺はしばらく自転車に跨がったまま立ち尽くし、

　（っっっ－－－ッギャァアアァアアァアア！！！！）

　心の中で、絶叫していた。

　見慣れていたのは赤い車だったし、おばさんに会うのは本当に久しぶりで顔も忘れかけていた。
　だから、俺はそのことに気付く前に、彼の暗黒時代の扉もとい、古傷を開いてしまったのだ。

　（何で、何でアイツがここにいるんだよォオオ）

　はたから見れば普通に十字路を渡っていく俺の中はパニック状態だった。

　高校で別れたものの、しっかりと恐怖を刻み込んでいったアイツ。
　どんなに忘れたくてもそう簡単に忘れられるものではない。

　目が隠れていた先程の笑みが、また恐ろしい。あぁあ恐ろしい！！

　恐怖。恐怖だ。それしかない。
　ちらっと一瞬見ただけで、これほどまでに人を恐怖のどん底に突き落とせる男が他にいるだろうか、いやいない。

　そんなヤツが存在してもし出会ったりするようなことがあれば・・
　・・俺は間違いなく、不登校になるだろう。

　それにしても、さっきから恐怖心の陰で気になっていたのだが、ひとつ謎がある。
　ヤツの車は俺の家の方向から俺の進む道へと一直線に走って行ったのだが、

　ヤツの家は、まさにその方向にあるのだ。

　何故、自分の家の方向へ行ったのか。（しかもその家を普通にスルーしていった）

　ホラー映画を見ているような気分だったのに、ミステリーへと変わってしまった。

　ヤツの家をと見上げると、窓から見えた二階の部屋には何もないようで、もぬけの殻と言ってもいい。人の気配はまるでなかった。

　引越したのだろうか。

　そんなことをうっすら思いつつ、朝からやけに疲れてしまった俺は、ひとまず遅刻しないように自転車を漕ぎ出した。

　何か不吉なものを振り切るかのように。






＜実はこれ、７割方実話で『これはフィクションであり、実際の人物（略）』

　・・これはフィクションです！（ガタガタガタガタ）