2008/05/02 (Fri) 21:44:15 気まぐれＳＳ：世界シリーズ

　〔世界シリーズ〕


　「みにくくみにくい　この世界」

　この世界は　汚れている。
　だから美しいのだと。


　それを否定する気はない。肯定する気もない。
　導きだした答えがどちらであるかなど　到達しない限り半永久的に自身には知り得ないことだ。

　汚れた世界に生まれた私たちは　時折この世界の美しさを知り　無意識的にこの世界の汚れを知っている。
　それは汚れた世界に生を受けた汚れた私たちが　この美しい世界より美しいものを知り得ないからだ。

　想像を超えるものを想像し創造し得ないものを創造することはすなわち　既にこの世界の住人である自身ではないということである。
　誰しも人の領域を超えることなどできないし、存在しない俗に神と呼ばれる存在を領域を侵すこともできないのだから。


　一人の彼が立ち上がる。
　この世界を壊したい　と。

　あくまで彼は人で　汚れた世界に生まれた　汚れた人で
　この世界の美しさを知りながら　世界の汚れを誰より知っていて
　だから　必然的に人工的な汚れは赦し難く
　彼は手を染め　汚れた水に手を浸し
　掬い上げ　救い上げ
　両手に埋まる重た過ぎる離し難い荷物を抱え
　彼は世界を染め上げる
　この上なく　美しく　美しく
　この世界に在する　汚れで清めて
　彼は　汚れて
　彼は　浄められて

　そして、　彼は。
　いずれ彼の地へ向かう　彼は－－－－－・・・


　・・・ほら、私が始めに言った通りだ。
　彼がどうなったかなんて知らないし、答えなんて出していない出すべきでないのだ答えなんて
　神秘的で魅惑的で絶対的で真理で恐怖でしかない　無関係な得体の知れないもののことなど。

　正直、どうでもいいのだ、そんなこと。
　直接的な関わりなどなく、知らなくとも私たちは生きていける。
　現に偽る　この世界で。

　人知れず　自身でさえも気付かず
　この世界に組み込まれているどうしようもないどうしようもできない人知れぬ葛藤と矛盾と不満と安堵を抱え
　生きるまたはここで生を終えるしかないのだ・・・。

　この世界に音もなく広がる美しき花園以上の安息の地に
　私たちの遺骸が横たわることはない。


　一輪のお花を手向けましょう。

　どうか　彼が眠らない花の在る楽園で出会えますように
　いつかの眠りにつきますように　と。


　そして私は今日もこの優しく易しい世界で生きていくのだ。


　醜く見悪い　この世界を
　私はそんなに　嫌いじゃない。