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いつも何かに心惹かれて語りだす、起伏の激しい無節操ライフ。
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〔後日に語る、他称神との座談会の記憶〕




「・・・・・・ハッ」

「どうしたー田口ー」

「今仕事中ですダイさん。人前で呼ばないで下さい」

「ほんっと律儀だよなぁお前」


 読んでいた新聞から顔を上げて、男は呆れたような、感心しているような表情を見せる。


「さっきまでオフだったろうに、切り替えが早くてうらやましいな」

「仕事ですから」


 アンティークの机をはさんで男と向かいに座っているのは語り部。
 彼は両肘をついて手を組み合わせ、簡潔にさらと答えた。


「そりゃ仕事熱心で嬉しい限りだな」


 男は笑い、がっさと新聞を畳む。
 机の上に置かれたそれの一面には彼の写真があった。


「おや。またテレビですか。
 俺としたことが見逃してしまったようです」


 心なしかしょぼくれている、ような様子を見せる語り部に違う違うよと男は笑い顔の前で手をひらひらさせる。


「テレビは断ったさ。あれはこの前のでもう懲り懲りだ。
 僕はマスなゴミは嫌いなタチでね」

「はっはっは御冗談を」


 明らかに棒読みで語り部は笑い声を出した。


「新聞でインタビュー受けてる時点でマスコミ大好きじゃあありませんか?」


 下からものを言っているのに、滲み出す意地の悪さにも似た妖しさは言わずもがな、滑稽な着ぐるみウサギの頭部が醸し出している。
 一歩間違えれば子供でなくても泣き出しそうな不気味さを伴う頭であるが、この男はもう見慣れたものだった。
 語り部が自らの顔を隠すこのウサギ頭も、語り部の奇妙な態度も。


「お前本っ当いい性格してるよなー」


 気を悪くすることもなく、男は笑う。
 それには確かに面白がっている風情があった。


「・・・褒めても何も出ませんよ?」

「褒めてねぇよ」


 何もない、を両の手の平を掲げて見せ、茶目っ気があるとでも表現してほしいのかどうなのかピンクの長い耳を揺らして肩を竦める語り部に男は冷静に突っ込む。
 そして頬杖着いて吐息をひとつ。


「仕方ないだろ。作品を発表するにはどうしても必要なんだからよ。
 作品について興味を持ってもらえるって点では確かにインタビューは好きさ、けどテレビは煩い。皆目立ちたがりに見えて嫌なんだ。
 大体、メインは僕じゃなくて作品なんだから言葉だけで十分じゃないか。僕のイメージのせいで視聴者に作品に対する先入観を持たれたくはない。
 あくまで僕ぁタレントじゃなくてクリエイターであって・・・って聞いてんのか田口」


 自分から聞いたことであるのに、語り部は上の空で。
 というより、どこからか舞い込んできたらしいてんとうむしに気を取られているようであった。


「呼ばないで下さいって言ってるじゃあないですかダイさん」

「何で僕が文句言われなきゃなんねーんだ」

「はい、はい、分かってますよダイさんそんなに怖い顔しないで」


 わざとらしく語り部は身を縮めて震えてみせる。


「聞いたはいいんですけどね、すぐに聞く意味なかったと思いまして」

「酷いなお前」

「だって。ダイさんがそう考えていることなんて、知ってますから」


 男が言葉を失う。
 が、語り部が「何だか喉渇きませんか?ダイさんコーヒーとか入りませんかあぁダイさんはカルピス派でしたっけ」などと言うものだから、


「白は白でも僕は白ワイン派だ」


 怒り気味の様子でぱんと手を打ち鳴らした。
 すると誰かが近寄ってきて、テーブルの上にアイスコーヒーをふたつ置いて一礼しいなくなった。


「いつも思うがなんとも気がきくことだな」


 男は気を落ち着かせるように長く息を吐いて、グラスに口をつける。
 氷のからりと涼しげな音が転がった。


「で、お前はどうしたんだよ、語り部」

「・・・何がですか?」


 とぼけたように語り部が首を傾げると、耳がぱたり横に倒れる。


「1番最初に聞いたじゃないか。思い出したようにハッとしてさぁ」

「あー・・・・・・・・・
 ・・・・・・あぁ」

「忘れてたのか」

「忘れていたのを思い出して忘れそうになってました」

「大事な話だったらどうするんだ、語り部らしくもない」

「そうですねぇ」


 ウサギ頭を被っている以上当然のことなのだが、語り部はグラスには口をつけず、グラスに両手を添えてその黒とも茶ともいえるような液体の揺らめきを眺めていた。


「ちょっとばかり、面白いようなことがありましてね」

「へぇ。お前がそういうのは珍しいな。何だい」

「えぇ、・・・気付けば随分と前の話になってしまっていましたが」


 語り部は語り出した。


「今まで会ったことのない方と、語り合う機会を持ちましてね。
 変わった方、と言う俺も変わっていないとはいえないが変わった方でした。
 そう・・・他称神と言いましたかね」

「他称?初めて聞くな。
 自称じゃないなら所謂神ってことじゃねぇのか」

「あえてそのような言い方をするなら何か意図があったんでしょう。まぁただの言葉遊びかもしれないがねぇ。
 ・・・よく笑って、少し傲慢な装いを装って糖分に快楽を注ぎ度々友人自慢と大変目まぐるしく飽きない方でしたね」

「・・・お前それ少し悪口入ってないか」

「おや、そうですか?」


 いけしゃあしゃあと語り部は応える。


「確かに。多少こちらのペースを見出される方ではあったような気もしたようなしないような」

「どっちだよ。
 しかし本当に珍しいな。お前より上手な奴はそうはいない。
 僕も一度会ってお前との付き合い方を教わりたいところだ」

「あ、それはダメです」

「何で」


 すでに男はグラスの中身を飲みほしている。
 語り部は男とウサギの大きなぐるぐる目玉の高さを合わせた。


「ダイさんとあの方を会わせたら、きっとダイさんはついていけずに熱を出してしまいます。
 テンションが高い人、苦手じゃあないですか。あとで誰が介抱すると思ってんですか」

「ごめん。この前の取材のあとは本当に悪かった。
 けど、あぁ、残念だな」

「残念といえば、前提としてもう会うこともなさそうですしねぇ」

「あれ、田口お前結局その人のこと気に入ってるの」

「ダイさんこれ以上呼んだらいくら俺でも怒りますよ仕事投げますよ頭皮にコーヒーかけますよあのこさん呼んで言い付けますよ」

「ごめん。本当ごめんあっちゃんだけはやめて頼むから」


 テーブルに頭を打ち付けるまでして、男は謝罪した。


「・・・まぁ、冗談ですけどね」

「その言葉が真実であることを祈るよ」


 苦笑いで頭を上げた男の額には冷や汗が浮かんでいる。
 どうやら、彼にとって頭が上がらない相手がいるらしい。


「それで、さっきの問いに対する返答ですが」


 氷の溶けきったグラスの縁を指先でなぜて、語り部は淡々と言う。


「答えは不明、です」


 しばらくの間をおいてから、男は「なんだそら」と呟いた。


「だって、ねぇ。気に入ろうが気に入らなかろうが、同じことなんですよ」


 同じ調子でウサギの目玉は遠くを見ている。


「基本、俺はひとつの物語は一度しか語らない。同じ物語を何度も語る必要はないからです。
 もう一度物語を聞きたい観客は自らその物語を求めます。その時にはもう俺の出番はない。
 仕事仲間でもない限り、願っても再び出会うことは、叶わないんだから」


 淋しげな面差しも悲しげな声色も悔しげな仕草も一切示すことなく。


「思い出だけを増やしても、俺の意思に関係なくいずれは埋もれて消えてしまいますから。
 ねぇそうでしょう、ダイさん?」


 かくん。横に倒れたウサギ頭に問い掛けられて、残った氷を口の中でがりがりいわせていた男は、冷たさを飲み込み、口角をついと引き上げた。


「成る程、成る程。ようやく、よぉーく分かったよ」


 にやにやと男は笑みを隠しきれないでいる。


「だからこの僕を語り相手に選んだわけ、か」


 語り部はというと素知らぬ顔付きで、・・・といってもウサギなのだが。
 どこかに飛んでいってしまったてんとうむしをそのぐるぐる目玉で探している。


「同じ物語は語れません。脚本がないかぎり、俺は登場人物にはなれません。
 他称神を交えた新たな物語があれば話は別ですがね」

「オーケイ、オーケイ。皆まで言うな」

「ダイさんその言い方老けて見えます。
 あとその笑い方気持ち悪いですやめて下さい今すぐに」

「お前のストレートすぎる言葉はどうして僕を痛烈に突き刺すのが好きかな!」


 落ち込む男に、語り部は励ましの声をかけてやる。


「仕方ありませんよ。俺の台詞は主に脚本家の影響なんですから。
 文句を言えるなら言ってみても構いませんが無事で済む保障はないので諦めたもの勝ちです」

「・・・あっちゃんの、」


 その続きを言う勇気すらないようで、男は頭を抱えて呻くしか道はない。


「わーったよ。僕からあっちゃんに頼めばいいんだろ。
 まったく余計なこと覚えやがって・・・」

「はて。俺は頼み事などなーんにも?
 それはそうとダイさん地が出てます」

「気のせいだよ」

「そうですね。そういうことにしておきましょうか」

 あとはあのこさんにお酒でも贈れば喜んでもらえますかね、と語り部が言えば頼むからやめてくれ、と再度男は額をテーブルにぶつけた。


「・・・不明とか言っておいて、なぁ。
 ホント、他称神さんとやらに会えないのが僕は残念でならないね」

「あ、ところでダイさん」

「今度は何だよ語り部君」


 げっそりと疲れた様子で男は返した。
 語り部は指先で濡れたグラスの側面をいじりいじり、ぽつん、と尋ねた。


「あの、そろそろホントに暑いんでコレ飲んでもいいでしょうか」

「だからその被り物取れよ!」


 ウサギの頭はぱこん、と丸めた新聞に叩かれたのだった。





<後書き。
 お久しぶりですかたり部語りシリーズです
 本当に久々な気がする今日この頃。
 しかも座談会の後日談って座談会やったのいつだって話でして
 あっごめんごめんなさい主に友 神無月!
 投石はやめて!ウサギにして!(怖いわ!)

 えーとそんなこんなで大変遅くなりました。
 語り部と緋雪さんの座談会後日談サイド語り部アンド監督でした。
 分からない方はカテゴリの小話を漁ってもらえればと。

 今回ほのかに匂わせましたが、次かまたその次くらいには新キャラ出したいなぁと。
 あとまたコラボできたらなぁと。思います。
 時間が欲しいものですねぇ。
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プロフィール
HN:
三条 静流
HP:
性別:
女性
職業:
学生
自己紹介:
三条の生態日記。
時々気まぐれにイラストとかSS小説とか出ます。
現在主に書いてるオリジナル小説は『かたり部語り』シリーズです。


三条静流の代名詞:
骸狂。カフェイン中毒。絵描きで物書き。むくろふぃりあ。半腐り。骸狂。
モットーは気ままに気まぐれにマイペースに。
曖昧なものと強烈なものに伴う感動をこよなく愛する。
受験終了しました。新生活もなんとかやっていきたい。
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