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いつも何かに心惹かれて語りだす、起伏の激しい無節操ライフ。
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〔語り部、息子役と語る〕






 それは、ある夜。
 俺と親父がテレビを見ていたときだった。


「ねぇ」

 後ろから、母さんの声がかかった。


「燃えないゴミに、タバコの吸い殻が入ってたんだけど」



 一瞬にして、柔軟さを失った空気。

 俺の表情は無。
 プラス、うっすら呆れ。



 親父は振り向いて、苛立ったように言った。


「誰かが入れたんだろ」

 そして2秒足らずで親父の顔の向きは元に戻る。


 抑えた低い声だったので、母さんは聞き返した。



「え?」

「だから誰かが入れたんだろ」


 さっきより少しだけ音量があって、激しくはない凄みがあった。


 それきり親父は完全にテレビに全身を向けてしまい、ただ無駄にでかい石のように見えた。

 母さんもそれ以上は言わなかった。



 賢明な判断だと俺は思い、黙って立ち上がった。

 親父の意識も母さんの顔も知らないまま、俺は自室へ戻るためにリビングを出て階段を上る。



 違うっつーんなら、怒れよ。

 俺は自然に細くなる目を気にしながら階段を一段一段上っていく。



 本当に自分じゃないって自信持って言えるなら、あの短気な親父のことだ、一秒でキレて言い返す。
 母さんがあれだけくどくど言い続けてやっと禁煙させたんだ、タバコ止めたのにあんな疑うような言い方されたら、怒鳴るなんてもんじゃないね。

 つーか何だあのごまかし方。
 俺だって、いや俺だからか。冷静に考えればもっと良い返し方もあっただろうに。
 責められてない立場の俺だからこそ言えることだ。

 ま、ホントに止めたってんなら疑われるようなことも有り得ないんだがな。


 俺は自室のドアを開け、後ろ手に閉めて、溜め息の真似をした。



 いつもいつも、親父というのはあくまで父親だ。
 子供が悪いことをすれば叱るし、勉強しなければ尻を叩く。


 親っつーのは、子供の鏡だ。
 すべて見本になんなきゃなんねぇ、んで知らない内になってる。

 誰に言われるまでもない、宿命ともいえる無償のハードな大人の仕事だ。



 親父だって、当然分かってるはずだ。

 でも、分かっちゃいねぇんだよなぁ。



 子供は、親を見て育つんだぜ?



 勿論完璧であれとは言わないが・・・時々、自分が冷めた眼で監視されてることに気付くべきだ。

 何も言わないのは、根源にある子供の親に対する恐怖があるからなんだぜ。



 良いことを子供に見せなきゃいけないのは分かるけど、自分のことを棚に上げなきゃ示しがつかないっていうかちゃんと叱れないってのも分かるけど。

 それにしても下手な正論ばっか振りかざして、さぁ。



「あぁ 、それもまた人間」


 お陰であんたの息子は、すっかり悟ったきどりだよ。



 だって、こっちは健康のこと心配してやってんのに、それをこう返されたら、なぁ。






「で、こんなんでいいのか?」


 俺は文字で埋められたルーズリーフをぺらんと目の前の奴に差し出した。



「いいよいいよ、上出来」

 奴は声で笑った。


「それにしても君、いい考え方をしてるね。俺すごく共感しそう。
 あー、分かる分かるって言いたい。すごく」


「言ってんじゃねーか」


 俺は思わずツッコミを入れる。

 元々その気質ではないが、こいつ相手にしたら誰だってツッコミストの称号が取れるだろう。

 ・・・あ、俺は例外ってことで。
 相槌打つのも面倒な俺にそんな大役は無理。要らない。



「だいたい、いい考えもあるかよ。
 犯罪者の動機ですら実は涙誘うものだった、ってのもフツーに有り得るんだぜ?
 いや言っとくけど俺が犯罪を肯定してるわけじゃないからな、フツーに」


 俺が言うと、奴は面白いものを見ているかのような風情で首を傾げる。


「その考え方がさ、いいんだよ。気に入らないなら言い直そうか?
 俺は君の考え方が好きだ。これでどうだい?」


「・・・ちょーびみょー」

 素直な気持ちだった。



「あっははは、なんとも微妙な返し方」


 ケタケタと空気みたいな笑い声をあげ、またいきなり奴は静かに俺に語りかける。



「悟ったつもりでも君は本当の悟りを知らないし、まずその定義が間違っているのかもしれない。
 本当のものなんて何ひとつない、でも本当は在る本物を知らないだけかもしれないし、目の前にあるのに認識していないだけかも。
 または、どうにもならないから認識できるものを認識していると思い込むしかないのかな」



 俺は溜め息を返答として、頭をがしがしと掻く。


「・・・どうでもいいけど、あんたの言ってることはよく分からん。
 つか、まぁ、俺にとってはどうでもいいんだよな、そういうむつかしいことはさ」


 考えて、それで何の意味があるというのか。
 答えのない問い掛けに、結局何が得られるというのか。



「別にむつかしいことをしてるわけじゃあないさ」


 奴は飄々として、見えない顔で遠くを見た。


「何かを得ようとしてするんじゃない。俺の場合はね。
 結果よりも過程が大事だとも言い切れないけど。
 ま、でもどっちかっていえば過程派かなぁ、俺人の話聞くから」


 そして奴は「仕事以前に、ね、」と付け足した。



「・・・思うんだけどさぁ」

「なんだい?」


 首を横に倒す奴をちらと見ながら、俺は尋ねる。



「お前、俺の話なんて聞いてどうすんの」

「どうもしないよ」


 あまりにあっさりとした答えだった。


「俺はね、仕事ができればそれでいいんだ。
 君の物語をこうして書き留めてもらったのは、ただ単に俺が気に入っただけ」


「・・・じゃあさ、もうひとつ、いい?」

「どうぞ」


 最後のQアンドAだね、と奴は囁き、

 俺は、



「どうやったら、あんたの顔が見えんの」


 奴の見えない唇が、ゆっくりと緩やかな孤を描いていく。



「さぁ、」


 息をつくように、語り部は答えをかたった。


「俺が顔を見せない必要性を見いだせないときには、目に見える姿にはなるかもしれないけどね」



 ・・・俺は、言い返す。
 無の表情で、意味も無く。


「『かもしれない』、『けど』、・・・また、曖昧なんだな」

「まぁね」



 そうして語り部は去っていく。


「君の親父さん、体を大事に言ってやりなよ」


「余計なお世話だ。親父だって自分のことは分かってるんだろうから、それでなにかあっても俺は知らねぇ。
 家族の心配も気にかけないようじゃ、追い込んだのは自分だけだからな。いくらあの性格でもそんなときになってまで責任逃れするかよ。
 親を絶対とする子供は口答えせず、そうならないことをただ祈るだけさ」


「はははっ、やっぱり君の考えはいいなぁ。
 つーわけで、俺も祈っとくわ」



 最後の最後までボケるというかズレ倒してくれた語り部は、完全にここから出て行った。



 この物語から。



「・・・人の真似してんじゃねーよ、あの、」


 あいつが俺の考え方を気に入るのは当然なんだ。


 だって俺は、
    君は、



 物語のすべてを知る 語り部の語る物語の
 台詞を与えられた役者のひとりなのだから。







<今回は役者と語らせてみました。
 たまには人の話をただ聞くのも良い。


 早く、語り部のビジュアルの描写がしたいです・・・。
 大声では言わないが 何気に気に入ってるんだ、語り部。
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プロフィール
HN:
三条 静流
HP:
性別:
女性
職業:
学生
自己紹介:
三条の生態日記。
時々気まぐれにイラストとかSS小説とか出ます。
現在主に書いてるオリジナル小説は『かたり部語り』シリーズです。


三条静流の代名詞:
骸狂。カフェイン中毒。絵描きで物書き。むくろふぃりあ。半腐り。骸狂。
モットーは気ままに気まぐれにマイペースに。
曖昧なものと強烈なものに伴う感動をこよなく愛する。
受験終了しました。新生活もなんとかやっていきたい。
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